元気スイッチ

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院長日記

2012.02.15

天皇陛下のバイパス手術

天皇陛下が冠動脈バイパス手術を受けられるそうですね。

心臓の筋肉を栄養する血管を『冠動脈』といいます。この冠動脈は心臓から血液を全身に送る大動脈の根元(つまり心臓から出てすぐ)から出ており、右に『右冠動脈』、左は最初は1本ですが、途中で心臓の前の壁を栄養する『前下行枝』と心臓の後ろの壁を栄養する『左回旋枝』に分かれ主に3本あります。

この冠動脈が動脈硬化で細くなると『狭心症』をおこすわけです。つまり細くなった血管でもじっとしていれば(安静時)、血液(酸素)は足りるんですが、作業や運動時(労作時)には細い血管では十分な血液(酸素)が供給できませんので、細い血管で栄養されている筋肉は酸素不足で悲鳴を上げる。この状態が『心筋虚血』であり、症状として胸痛や胸のしめつけ、圧迫感として感じ、診断としては『狭心症』となるわけです。

一般的には血管の細さ加減が75%を超えると心筋虚血を生じ(全く狭窄のない状態が0%)、狭心症の症状が出ると言われています。

(75%以上の狭窄部位は『有意狭窄』と言います)

陛下の場合は、左前下行枝と回旋枝の2本に有意狭窄があり治療が必要なようです。

現在、一般的には狭窄のある血管が1本だと、胸を開く手術(『開胸手術』)ではなく、カテーテルによって狭い血管を拡張する『冠動脈形成術』が一般的です。以前は風船によって拡げる治療が主流でしたが、最近は風船を応用して『ステント』という網目状の金属で血管を拡げる治療が主流です。

狭窄のある血管が1本だとステント治療が主流ですが、2本または3本ともに有意狭窄があったり、『左主幹部』と言って左前下行枝と回旋枝に分かれる前の部分(だってここが詰まったらどちらの血管にも血液が流れなくなるでしょ)に狭窄がある場合はステント治療では危険を伴うことが多いので、陛下のようにバイパス手術が選択されることもあります。

一般にカテーテル治療(ステント治療)は、胸を開く手術ではないので身体的負担が少ないことが大きな利点です(やっぱり全身麻酔で胸を開くのは恐い)。ですが、ステント治療は折角うまく血管が拡がっても、また狭くなってしまう『再狭窄』が10%ぐらいにおきますので、半年から1年後に狭くなっていないかのカテーテル検査(冠動脈造影検査)や、狭くなっていれば再度のカテーテル治療を受ける必要が出てきます。また、カテーテル治療にはかなりの造影剤を使用しますので、腎臓の機能が低下した方(高齢者は年齢的にも腎機能が低下していることが多い)では治療の適応にならない場合や、治療後に一時的な透析が必要になることもあります。

一方、陛下の受けられるバイパス手術は、一度つなげばあまり狭くなることはありません(うまくつながればですが)。今回、両方の『内胸動脈』を利用してバイパスするとのことですから、動脈によるバイパスは静脈を利用するバイパスと比べてつまることがほとんどないので手術さえうまくいけば安心かもしれません(内胸動脈ってなぜだか動脈硬化がおきにくい血管のようです)。

とくに手術は「心臓が動いた状態でする」と書いてありましたから、『人工心肺を使用しないバイパス手術(OPCAB)』のようです。以前は心臓が動いた状態では、細くて繊細な血管吻合手術は不可能なので、心臓を止め人工心肺を回して手術する必要があったのですが、技術の進歩で部分的に心臓の動きを押させたりして、心臓が動いた状態でも手術が可能となりました。この人工心肺を使用しないで手術する利点は、出血傾向が少なく出血量や輸血量が減る(人工心肺を使用するときは血栓の予防薬を使用しないといけないので)、人工心肺の開始・終了に伴う時間が削減されるので手術時間が短くなる、脳梗塞や腎機能障害が軽減するなどがあり、高齢者では特に選択され、手術成績も良好となっています。

それにしてもカテーテル検査をされた先生、手術を出刀される先生は手がふるえないのでしょうか?

僕ならふるえてしまうと思います。

なにはともあれ天皇陛下の手術が無事済まれますようお祈り致します。