元気スイッチ

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院長日記

2021.01.03

高山義浩先生の元旦の記事です

沖縄中部病院の高山義浩先生の元旦のFaceBook記事です。これからの一年がどんな感じになっていくのか、とても参考になります。
それにしても、世界中コロナでてんやわんやな中、オリンピックを開催する意味ってなんなんだろうと思う。
「近代オリンピックの父」クーベルタンが唱えたオリンピックの精神とは「スポーツを通して・・・平和でよりよい世界の実現に貢献すること」とされ、選手の活躍が、世界中の傷ついた、疲れ果てた人々の希望の光になるのかもしれません(ステイホームの手段にはなると思うけど)。
選手、とくに今がピークの選手は兎にも角にも開催して欲しいでしょうね。準備不十分の選手も多いかもしれない。本来のオリンピック、世界一とは言えないかもしれない。でも、勝っちゃえば、そんなこと関係ないですもんね。やっぱ「金」は「金」。こんな中での「金」は意味がある・・・物は言いようです。
しかし実際は、もっと別なとこ、もっと邪(よこしま)なところにあるような気がしてます。
でも、なにはともあれ今年一年もコロナに翻弄されながら経過していくのは間違いありませんね。

以下本文です。
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あけましておめでとうございます。
新型コロナウイルスの流行は厳しさを増していますが、地域にとっても、家族にとっても、私自身にとっても、これを乗り越えて良い年にしていければと願ってます。先が見通せれば、いろいろ準備もできるのですが、あまりに不確定な要素が多くてシナリオすら作れない状況です。少なくとも、決め打ちはいけません。
ただ、正月明けに大きな流行となることは避けられなさそうです。初旬は大都市での流行が拡大し、中旬以降は地方の中核都市が厳しい状態になるかもしれません。帰省や成人式を制限できなかった地方の町村でも、散発的な集団感染が重なるでしょう。とりあえず直近に備えておくべきは、ここだと思います。
加えて警戒すべきは、感染力の強い変異株の流行です。新規入国は制限されましたが、ビジネストラックは動いています。よって、イギリスで認めている変異株が海外から持ち込まれる要素は排除されていません。
その場合、今までのやり方では地域医療が持ちこたえられず、救急および集中医療のトリアージが必要になることも考えられます。さらに大きな流行となれば「臨時の医療施設」の立ち上げと特措法に基づく医療従事者の動員が求められるかもしれません(考えたくないですが想定は必要)。
ワクチンがゲームチェンジャーになるでしょうか?
早ければ2月下旬より医療従事者400万人にワクチンが接種され、その後、65歳以上の高齢者3600万人、基礎疾患を有する820万人、高齢者施設の職員ら200万人へと順次接種が進められる予定です。これで社会の雰囲気は変わるかもしれませんが、指定感染症の解除などオペレーションまで変えられるか・・・、まだ何とも言えません。
まず、先行接種している欧米の経験を注視して、どのような副反応があるのか確認する必要があります。発症予防効果は認められるようですが、周囲への感染予防効果、高齢者の重症化(死亡)予防効果まで期待できるでしょうか?
とくに、2~3日前からの感染力を維持したまま発症だけを予防してしまうとすれば、医療・介護従事者が接種すると(発症しないので)自らの感染に気付かないまま感染を拡げる可能性があります。その場合、接種順位は高齢者が先のような気がします。
高齢者と介護従事者への接種が完了したとしても、介護現場の緊張感は変わらないでしょう。現在、70歳以上のコロナによる致死率は7%ぐらいですが、ワクチン接種で5分の1に落とせたとしても1%以上のままだからです。
同年代のインフルエンザ致死率が0.15%程度と見込まれますから、地域流行が続いている限りは、あるいは、この病原性が維持されている限りは、変わらずの感染対策が介護現場に求められます。
7月末から東京オリンピックが予定されています。コロナ対策としての前哨戦が、事前合宿を受け入れるホストタウンで始まります。沖縄県でも、沖縄市がニュージーランドの空手チーム、八重瀬町がソロモン諸島の水泳チーム、宮古島市がオーストラリアのトライアスロンチームなど、いくつもの市町村が名乗りを挙げています。
選手を守る観点からも、住民との交流は難しいでしょう。ただ、報道陣、あるいは親族やファンも訪れる可能性があり、こうした方々への行動制限は難しく、レストランなどで住民との接触が重なるでしょう。オリンピック前から地域での多様な株での流行があるかもしれません。
ワクチン耐性の変異株の出現が、オリンピック開催への大きな障壁となるかもしれません。欧米での接種が進めば、いずれは耐性株が選択されてきます。数か月後になるか、あるいは数年後になるか分かりませんが、RNAウイルスとはそういうものです。
今年中に耐性ウイルスが出現しなければ・・・、秋までには、欧米諸国の多くがワクチンもしくは感染後の獲得免疫による集団免疫を実現すると思われます。そして、(無理やりでも)平常へと復帰するでしょう。ワクチンへの懐疑的な声もあるはずですが、学校や企業が復帰への条件に接種証明を求めるなど、接種を推進する施策を打ち出してくるでしょう。とにかく、2020年の悲劇を繰り返したくはないはず・・・。
現在、EUメンバー国、アメリカ、カナダ、オーストラリア、そして日本が、今年中に全国民に2回接種するだけのワクチンを確保しており、実際に国民が接種に応じるかどうかは別にして、集団免疫への道筋は見えています。
さて、悩ましいのが中国です。国家衛生健康委員会によると、中国のワクチン製造能力は、今年中に生産できるワクチンは6億1000万ドーズ、来年でも10億ドーズ程度とのこと。2回の接種が必要とすれば、来年末までに人口の6割ぐらいしかカバーできません。しかも、中国は外交戦略の一環として、多くの途上国にワクチン援助すると約束してしまっているので、国民への接種が後回しになる可能性すらあります。
もともと中国は、「国内感染例が少ないので、ワクチンの国内需要も高くない」という前提に立っていました。けれども、ウイルスの世界的な拡散と持続によって、欧米諸国が大規模接種に踏み切ったことで様相が一変する可能性があります。つまり、中国が誇る「感染を封じ込めた」とする優位性が失われるということです。
耐性ウイルスが出現しなければ・・・ の話ですが、中国は集団免疫における周回遅れとなる可能性が高いです。そうしたなかで、隣国日本として、中国とのビジネスやインバウンドをどうするか・・・ とくに密接に付き合ってきた沖縄はどう線引きをするのか、難しい判断が今年後半には求められるように思います。
最後に・・・、インフルエンザ流行が今年のダークホースになるかもしれません。昨年1年間、インフルエンザは流行しませんでしたから、私たち日本人の獲得免疫のレベルはかなり低下しています。
春先にコロナ流行が沈静化して本格再開したとき・・・、あるいはコロナワクチンの接種が進んで、国民の警戒レベルが低下したとき・・・ インフルエンザワクチンの供給が始まる10月以前・・・ このあたりがインフルエンザにとって大きな流行のチャンスです。
そのとき、「コロナじゃなければ良い」という風潮があれば、大流行となって高齢者を中心に大きな被害をもたらすかもしれません。昨年のコロナ以上の死亡者が出るかもしれません。
言うまでもなく、コロナに限ることなく、高齢者を感染症から守っていくべきなのですが、あまりに社会がコロナシフトしていると、そのときの混乱、落胆、不信は少なくないと思います。
以上、思いつくままに、自分の頭の整理もかねて書いてみました。個人的には、いろいろ決着がつくであろう9月末をひと区切りとして、感染症医としての仕事を整理したいと思っています(やや決意表明)。もちろん、今後もニーズがあるようなら、私自身をカスタマイズしていくつもりではいます。
必要とされるところで仕事をさせていただける幸せをかみしめつつ、淡々とできることに取り組んでいきたいと思っています。今年もどうぞよろしくお願いします。