元気スイッチ

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院長日記

2023.01.08

NPO法人『しゅうなんまちなか保健室』につきまして

『暮らしの保健室』って、ご存知でしょうか?
訪問看護師の秋山正子さんが、新宿の昭和の時代に建てられた巨大な公営マンション郡「戸山ハイツ」(33棟3354戸)につくった医療・介護・暮らしの相談支援の場です。「戸山ハイツ」は当時の時点で高齢化率48.3%と非常に高く(ちなみに2020年周南市32.5%)、まだ訪問看護の存在があまり知られていなかったこともあり、かなり進行した状況で依頼を受けることが多く、「もっと早く医療や介護とつながっていたら」、「もっと気軽に医療や介護のことを相談できる場があればいいのに」と思っていました。そんなとき、イギリスのがん支援拠点『マギーズ・センター』を知り、そのコンセプトを参考に、学校の保健室のように、医療や介護、暮らしの悩みを、専門職種に気軽に相談でき、相談がなくても気軽に立ち寄り、安心できる場を・・・ということで2011年、「戸山ハイツ」の一角に『暮らしの保健室』をつくられました。そのアイデアは共感を呼び、また、秋山さんが『暮らしの保健室』の名前の使用を誰でも可能としていることから、全国各地に様々な形の『暮らしの保健室』ができ、2017年にはグッドデザイン賞「地域づくり」特別賞を受賞されています。

私は、2007年に開業し、請われるまま在宅医療を始めましたが、見様見真似もない状況からでした。次第に力不足を実感し、在宅関係の学会を探して勉強に行き始めました。とりわけ2013年の日本在宅医学会(愛媛)と日本ホスピス・在宅ケア研究会(長崎)は衝撃的で、「多職種連携」「顔の見える関係」というキーワードに刺激され、同年末に『あ・うんネット周南』(多職種連携を図る研修会などを企画する有志団体)を立ち上げました。その後も様々な在宅医療関係の学会で勉強する中で、秋山さんの講演を聴き、『暮らしの保健室』を知りました。当時、小澤竹俊先生の講演を聴き、「傾聴」の大切さを知りましたが、患者さんが多くなると、ゆっくりお話を聴く時間がなくなるのでジレンマを感じていました。また、『暮らしの保健室』もそうですが、地域に根ざすこれからのクリニックは、ひとが集まる場所にもなり、まちづくりへの意識も必要なことを知り、クリニックを大きくし、ライブラリやカフェ、庭をつくり、ひとが集まる仕掛けをつくり、ライブラリを『暮らしの保健室』としたいと思うようになり、2017年に移転した次第です。

ライブラリでは『暮らしの保健室』としての活動もスタッフが少しずつ始めてくれ、楽しい場、安心できる場になってきていました。色んな人が集まり、色んなイベントも開催されるようになり、皆さんの遠慮もなくなっていき、次第に地域に開かれた場となってきた実感を持ち始めていました・・・そんなところで、コロナになってしまい、すべてが止まってしまいました。

ご承知のとおり、日本は世界一の高齢化社会を迎えており、2025年には団塊の世代が75歳以上となっていきます。上記にはこの超高齢化社会があり、そこを乗り切るため、人生の最終段階になっても自分らしく、住み慣れた地域で暮らし、逝けるようにと、2016年から全国で「地域包括ケアシステム」を構築するための事業「在宅医療介護連携推進事業」が開始され、周南市では事業名称を「あ・うんネット周南」として取り組んでいます。私も当初よりコアメンバー、座長として取り組んで参りました(現在は副座長)。在宅医療の経験も増え、今では在宅、施設、病院で年間約50名を看取らせて頂くようになりましたが、人生の最終段階に備えて考えている人は少ないし、家族も受け入れられないことが多く、どこまでも治す医療(医療モデル)が未だ横行している。一方、そこを悲しいけど受け止め、病気や不自由さともありながらも、無理くりな医療をできるだけ避け、緩やかに高度を下げれば、住み慣れた場所のまま、つまり、住み慣れた雰囲気、聞き慣れた声、生活の音、匂い・・・そんな中で穏やかな最期を迎えることができる。どんなに歳をとっても悪くなったところを治したいのはわかるけど、本人は理解できなくなっているのに、それでも医療を求めればどうなるのか・・・?年齢的にも人生の最後が見えているのに、残り少なく消え入りそうな命を愛おしむこと、慈しむこと、忘れていないか?手足をしばって点滴することが愛なのか?命を大切にしていることなのか?手をつなぐこと、抱きしめてあげること忘れていないか?そんなことを悶々と考え、苛立つことが多くなっています。90歳代の男性。畑で倒れ、心肺停止に。一命はとりとめたけどほぼ植物状態、鼻チューブからの栄養で命が維持されていました。ご家族がチューブを抜き、自宅で看取ることを決意。家に帰ってチューブを抜いてからは表情が穏やかに。住み慣れた空気感、ご家族に見守られ逝かれました。表情は穏やかというより爽やかだった。あんな爽やかな表情は私には衝撃だった・・・でも、後日、親戚の方から、「家で、点滴も何もせず死なすなんて家族には地獄です!」と非難され、ショックでした。そのとき、改めて、市民講座のような年1回、一方的に話すのではなく、もっと頻繁に、気軽にそんな経験をお話し、市民の方々とも一緒に考えないといけないなと思いました。

クリニックのライブラリもそんなことをするために、大神というまちがよくなるようにとつくりましたが、周南市の中心で、そんなことを意識し、考える場がないことには、より多くの市民には知ってもらえないなという思いがありました。駅ビルや市役所が新しくなって人が集まってきました。デパートの跡地の再開発が始まりました。でも、商店街はまださびれたまま。商店街の一角にひとが集まる場をつくり、商店街の活性化にも貢献したいし、人生の最後まで楽しく暮らせるまち(地域包括ケアシステム)、どんな状況でも自分らしく暮らせるまち(共生社会)の実現を目指すフラッグシップといえるような場をつくりたい。フォーマルとインフォーマルの間をつなぎ、皆で力を合わせ、少しずつでも課題を解決できれば、少しずつ理想に近づき、周南市はもっとよいまちになるのではないか?そう思って周南市のまちなかに『暮らしの保健室』をつくる『しゅうなんまちなか保健室』の活動を開始しました。

ロゴマークデザインは「PH GRAPHICS」の福永みつおさんにお願いしました。
ロゴマークの作成は、山口県「山口きらめき財団」の「きらめき活動助成金「ゆめ」プログラム」を利用させて頂いております。