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院長日記

2020.03.02

新型コロナウイルス感染症情報⑦

沖縄県立中部病院、高山義浩先生が3月1日にアップされたFaceBook記事です。いつもながらとてもわかりやすいです。以下、本文です。
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新型コロナウイルスに感染した患者について報告が重なっています。昨日(2月29日)は、宮城県など3つの県で新たに確認され、国内における感染者数の累計は945人となりました。ここのところ、疫学リンクが追えない(誰から感染したか分からない)症例が増えていることから、見えないところで感染が起きていることは間違いありません。
新型インフルエンザの行動計画に基づけば、これは「地域感染期」に該当します。すなわち、症状によらず確定患者を入院させるといった封じ込め施策をやめて、軽症者は自宅で療養し、重症者の救命を最優先とするフェーズに移行するということです。
しかしまだ、確定患者が70人となった北海道も含め、全国において、封じ込めるべく医療機関は努力し、患者さんも入院に協力してくださっています。なぜなのでしょうか? いつまでやるのでしょうか?
個人的には、かなり厳しくなってきたなと思っています。今後、全国的な流行へと移行する可能性が高いです。でも、(2月8日にも書きましたが)封じ込められるなら、封じ込めた方がいい。この厄介なウイルスを流行させてしまったら、おそらく多くのお年寄りが亡くなります。
地域によっては医療提供体制が持ちこたえられず、新型コロナ以外の患者さんの救命率も低下するかもしれません。だから、あらゆる手段を講じて(ただし、法律で許される範囲内で)、このウイルスを封じ込められるかやってみようと政府は呼びかけています。
入院勧告などの封じ込め策が「いつまでか?」については、長くて3月中旬までの2週間と考えてください。徹底した外出自粛が行われたとしても、潜伏期を考えれば1週間ぐらいは患者数が増加しつづけます。クルーズ船でも認められた現象ですね。そこで動じないことが必要です。さらに1週間、じっと待てば減ってくる可能性があります。
なお、患者数が減ってきたにせよ、残念ながら増えてきたにせよ、その強度を変えながらも外出自粛は継続されると理解してください。いきなり解除すると流行のリバウンドが起きることが知られています。
もちろん、私たちが封じ込めに成功しても、韓国は失敗するかもしれません。気づかれてないだけで、東南アジアで流行しているかもしれません。そうなれば、私たちが封じ込めに成功したとしても、再流入するリスクはあります。
でも、どうせ世界で失敗するだろうからと各国が諦めてしまっては、封じ込められるウイルスも封じ込められなくなります。我々は世界を信じて、足元のことをしっかりやるしかないんです。
封じ込めに賭けるだけの明るい情報が2つあります。これで「なぜやるのか?」についてご理解いただけるはずです。
まず、中国において、発生地の武漢を含む湖北省を除けば、感染拡大の抑制に成功しつつあるように見えること。中国政府の疫学情報を信じれば、ここ1週間のあいだ湖北省以外の新規感染者は、おおむね数人で推移しています。つまり、このウイルスは封じ込められるという前例があるのですね。
もっとも、中国では、監視カメラ網と顔認識システムにより徹底した個人の行動管理を実行し、スマートフォンの位置確認システムで濃厚接触者の洗い出しまでしました。一方、日本は憲法に基づいて施政が行われる民主国家ですから、あくまで住民の「自粛」により実現しなければなりません。中国は強制力で達成しましたが、日本は団結力で挑むことになります。
もうひとつの明るい情報とは、新型コロナの感染力がインフルエンザほどではなさそうだということ。国内で発見された確定患者の濃厚接触者(1症例あたり数名から数十名)を保健所が追跡していますが、その後に感染が確認されたのが、ほぼ、同居者など家族に限られているのです。これがインフルエンザだったら、もっと学校や職場でのクラスターが確認されるものです。
ただし、例外があります。密集した閉鎖空間に長時間いたことから、大人数に感染させてしまう事案が発生しています。SARSやMARSの流行でも指摘されていたことですが、今回の新型ウイルスでも、1人で多人数に感染させてしまうスーパースプレッダーがいることが明らかになりました。ほとんどの方は1人以下にしか感染させていなくても、スーパースプレッダーが一定数いると、平均値としての基本再生産数(R0)が引き上げられてしまいます。
R0とは、定義上では「ある感染者がその感染症に免疫を全く持たない集団に入ったとき、感染性期間に直接感染させる平均の人数」とされます。理論上、1以下になれば封じ込められますね。これは、発症者が外出自粛を心がけるとか、咳エチケットが定着しているといった環境因子に影響されます。
実は、(発生当初の)中国と(現時点での)日本の違いとは、このスーパースプレッダーの数だと考えられています。まあ、武漢の現場を見ずに勝手なことを言うべきではないと思いますが、中国における衛生行動は飛沫感染や空気感染にナイーブなものの、接触感染には無頓着であった可能性があります。とくに、(混雑によって)清掃が不十分な病院環境がスーパースプレッダーを生み出してしまった。
だから、中国におけるR0が高めに出ているのでしょう。一方、日本では散発的なスーパースプレッダーを生み出すのみであり、日本人の手洗いを含めた衛生行動が比較的奏功している可能性があり、R0を低めに導いているものと考えられます。まあ、後から対策する側として、中国から学ばせていただいているわけですが・・・。
このことを概念図としたのが添付になります。インフルエンザと比して、新型コロナの再生産数(1人が感染させた人数)のすそ野が広いことが特徴です。このため平均値としてのR0は高めに出ており、とくに中国ではインフルエンザ以上の値を示してしまいました。でも、今のところ、日本ではR0は低めに出ているようです(具体的な数値は投稿中なので待ちましょう)。
さらに徹底してスーパースプレッダーを封じ込むことができたとしたら・・・、R0は1以下となり、疫学リンクが追えようが追えまいが、自然に終息する可能性が見込まれます。これがいま、政府の専門家会議のメンバーらが主張しておられることです。
これまでの内外における積極的疫学調査のデータを見ると、どうやらスーパースプレッダーとは「人」の特性ではなく、「環境」の特性によるものと考えられます。つまり、クルーズ船とか、宗教団体の集会とか、屋形船とか・・・ そのような環境をウイルスに提供しないことが重要なんですね。
そしてもうひとつ・・・、何度も繰り返し私が述べていることですが、病院をスーパースプレッダーの場にしないことが重要です。そのためにも、軽症者が病院に殺到する事態を何とか回避しましょう。受診する人がマスクを着用したり、手指衛生を心がけることはもちろんですが、やっぱり病院の受診者数そのものを減らし、それぞれの滞在時間を短くすることが、院内感染のリスクを減らすのです。
ですから、どうか症状が軽い方は診断を求めて受診しないでください。そもそも、診断がついても軽症者に対する特異的治療はないのです。むしろ、体力が低下した方が集まる病院で感染を広げてしまうリスクがあるのです。あるいは、あなたが新型コロナに感染していなかったとしても、病院で感染して帰ってくることになるかもしれません。
鼻腔や咽頭拭い液によるPCR検査の結果を過信している方もいるようですが、この検査の感度は高くなく(おそらく70%以下)、陰性であっても感染を否定できません。しかし、陰性結果をもらった人は(実は感染者であるのに)感染予防をとらなくなるリスクがあることを、この検査の特性を理解している医療者は憂慮しています。あと、この検査を実施すると咳き込む方が多いため、ウイルスが撒き散らされて医療従事者への感染リスクを高めることも知ってください。
ですから、新型コロナが地域的に流行しているあいだは、風邪症状を認めたら「自分は新型コロナに感染したんだ」と考えて、症状が治まるまでは自己隔離を徹底してください。ほとんどの方が風邪のままで軽快するはずです。ただし、基礎疾患がある方や高齢者については、症状を認めた段階で、かかりつけ医に相談することをお勧めします。場合によっては早期の診断と見守りが必要になるかもしれません。
あと最後に・・・、とくに基礎疾患のある方々へのお願いです。どうか医師の指導を守って内服し、規則正しい生活を送り、生活習慣病のコントロールを保ってください。これは新型コロナウイルスに感染したときの重症化予防にもなりますが、そもそも基礎疾患の合併症を予防することにも繋がります。
新興感染症の流行期に病院への集中を軽減することは、感染症に限らず、すべての疾患の重症化を予防することでもあります。ま、はっきり言うと、「忙しくなりそうなので、脳梗塞とかにならないでね」ってことです。