元気スイッチ

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院長日記

2020.04.01

高山義浩先生と金城隆展先生の対話_第1部

いつもの沖縄県立中部病院の高山義浩先生が、ご近所の臨床倫理学者金城隆展先生との対話です。いつものように我々のかゆいところにわかりやすく届く内容です。シェアさせて頂きます。一部と二部がありまして、これは一部です。では、以下本文です。
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私は、沖縄県の中城村という小さなコミュニティに暮らしています。我が家の裏にはハンタ道と呼ばれる生活道路があり、太平洋からの気持ちの良い風が吹きあがってきます。ご近所には、臨床倫理学者として全国的に活躍されている金城隆展先生が住んでいて、ときどき我が家に遊びに来てくれます。

土曜日の午後、病院の回診を終えて家に戻ったところ、金城先生がお茶を飲みに来てくれました。悩ましいことをぶつける機会です。彼は、あらゆる選択肢を肯定的にとらえ、そのなかで何を選び取るべきか(あるいは、取らなくていいか)を教えてくれるからです。

ここから数回に分けて、感染症医と倫理学者の対話をご紹介します。新型コロナの流行を控えたなか、お話の内容自体は深刻にもなりますが、週末の午後にお茶を飲みながら、一緒に座って聞いていただく感じでお読みいただければ幸いです。

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第1部 患者数の増大に地域医療は持ちこたえらえるか?

高山)先生、講演いろいろキャンセルになって暇になったんでしょ。

金城)でも、考える時間ができたから、肯定的にとらえてますよ。それにしても、何が始まろうとしてるんですか?

高山)一言でいえば、「大変なこと」が始まろうとしています。とくに、ここ数日、沖縄県でも新規に診断される患者さんが続いています。受診していない患者さん、見逃されている患者さんもいるでしょうから、これは氷山の一角です。沖縄でも流行が始まろうとしているのです。

金城)どれくらいの流行規模を予測しているのですか?

高山)私たちが、どれだけリスクの高いイベントを減らしていけるかにかかっています。ただ、こうした感染拡大を抑制する取り組みが上手くいかなければ、沖縄県におけるピーク時の発症者数は、1日で4,720人と推計されています。これは政府が示している計算式に基づくシナリオです。

金城)1日で5,000人近くですか? 多すぎて実感わきませんね。

高山)実はこれ、季節性インフルエンザが流行してるときと同じぐらいです。

金城)え? そうなんですか?

高山)そう、ですから、外来自体は不可能なオペレーションではありません。いまは、すべての患者さんを入院措置にしてるから大変なだけです。いずれ、例年のインフルエンザの診療と同じようにするときが来ます。いや、そうしなければ、それこそパンクします。

金城)なるほどね。じゃあ、何が問題なんですか?

高山)問題は、重症化する患者さんが多いことです。持病のない若者の多くは、ちょっと長引く風邪ぐらいで終わります。ただ、感染した高齢者の一部は・・・ もしかしたら半数近くが入院を要する状態になるかもしれません。

金城)半分ですか? それはインフルエンザとはケタ違いのインパクトでしょうね。

高山)はい、先ほどの政府のシナリオに基づけば、沖縄県でピーク時に入院している患者数は2,139人となっています。ちなみに、沖縄県全体の急性期病床は6,100床ですから、およそ3分の1が新型コロナで埋まることになります。なかなか大変な数字です。

金城)病床が足りなくなるわけですね・・・

高山)まあ、とはいえ、日本って、医療費のムダだとか批判されるぐらいの病床数を抱えているんです。いま、医療崩壊に直面しているイタリアが人口1000人当たり3.2床で、急いで病床を増やしているアメリカが2.8床、フランス6.0床、ドイツ8.0床です。一方、日本には貫禄の13.1床あります。皮肉なことですが、「病床に関しては」日本は豊富だし、やりくりすれば乗り越えられます。少なくとも、イタリアのようなことにはなりません。

金城)先生、楽観的なようでいて、「病床に関しては」の部分に力を入れましたね。

高山)私は悲観的ですよ。日本の病床数が多いのは、「社会的入院」という言葉に代表されるように、福祉の肩代わりをしてきた側面もあるからです。ヨーロッパの病床数が少ないのは、それだけ福祉の受け皿がしっかりしているから・・・ とも言えます。日本には、あんまり集約的じゃない病床が多い。それらは、急性期医療に向いてないんです。

金城)なるほど・・・ 多いと言っても、リハビリや介護施設のような病床もあって、新興感染症の治療ができないということですか?

高山)そういう病床に、空いてるからと新型コロナの患者さんを無理やり入院させると、容易にアウトブレイクしかねません。当然ですよね。1人の看護師さんが10人、20人の患者さんを一手にケアしてんですから・・・。

金城)そういうことか、病床はあるけど、医療従事者が足りないんですね。

高山)はい、イタリアは人口1000人当たり医師4.0人、アメリカ2.6人、フランス3.2人、ドイツ4.3人ですが、日本は2.4人です。病床はあっても、医療従事者が足りなくなる可能性があるんです。というか、このまま新型コロナの大流行になれば、働き続けて倒れるか、感染して離脱するかしかイメージできません。

金城)いったいどうしたらいんですか?!

高山)ひとつは、重症者に対応する入院医療と軽症者に対応する外来医療とを機能分化させることです。うちもそうですが、いま、多くの地域で、感染症指定医療機関が入院と外来とを一手にやらされている。このまま大流行になったら当然破綻します。せめて、軽症者は診療所へと誘導しないといけません。もうひとつは、急性期病院に入院している新型コロナ以外の患者さんのうち、比較的状態が安定している方については、回復期や慢性期、あるいは高齢者施設へと転院させていくことです。感染症治療ができる急性期病院をできるだけ身軽にしておかなければ、新型コロナの重症患者さんが行き場を失って、回復期病院を訪れて感染を拡げたり、家で待機させられてるうちになくなったりと、大きな混乱へと発展しかねません。繰り返しますが、病床はあるんです。それを地域で話し合って、うまく使いこなさないと・・・。(つづく)