元気スイッチ

3-12-1 daijin shunan-shi
yamaguchi 746-0018 japan
TEL.0834-64-1170

院長日記

2020.09.20

「看取り士」について 私の考え

昨年の夏、上映されていた映画『みとりし』ってご覧になられた方おられますか?
榎木孝明さんが主演の、映画としてはとてもよい映画です。
何が言いたくて、ここで映画『みとりし』や「看取り士」について取り上げているかと申しますと、各地で結構上映会が開催され、映画ではなく、「看取り士」という職種が、いささか盛り上がりすぎなのではないか?と思うのです(知らない方、興味ない方にはまったく無関係ですが)。
盛り上がるのはいいのですが、私と同じような考えのコメントを見ないのが気になっているのです。
まず、簡単に映画の内容を紹介すると、色々あって脱サラした榎木さん演じる主人公が、縁あって「看取り士」になり、山間の町でステーションを運営されます。そこに、新人看取り士の女の子が赴任し、同時に、その町の小さな病院に若い男性医師も赴任します。
在宅で亡くなっていく何人かの方との関わりを通し、悩みながらも、在宅での看取りを通して、看取り士の女の子と若い医師が成長していく・・・そんな物語です。
前置きが長くなりました。
実は、この物語の看取りの現場に「看護師」は出てきません。もっと具体的に言うと、「訪問看護師」は出てこず、「訪問看護」が入っている雰囲気がないのです。
つまり、「看取り士」と聞くと、とても穏やかな死、看取りに導いてくれそうなイメージを抱くのでは?と思いますが、この映画を観ると、「看取り士」だけで、穏やかな死、看取りが叶えられるように勘違いするのではないか?と危惧するのです。おそらく訪問看護師を登場させると、現場での役割がややこしくなるので省いたのかな?とも思うのですが、そこを誰もコメントしていないような気がして心配しています。
私自身、「看取り士」についてはとても興味があり、それもあって東京出張の際に映画館で観ました。実は研修も受けたいと考え、色々探しもしました。
「看取り士」の理念(「抱きしめて看取る」)、スキル、マインドはとても大切と思っていて、在宅、いえ、すべての看取り(死)に関わる医療者が身につけておくべきマインド、スキルと思っています。
だからこそ、映画で、通常の在宅チーム(医師、看護師、ケアマネ、ヘルパーなど)の間に、どう「看取り士」が入ってくるのか?役割分担はどのようになってくるのか?そういうことがとても興味があったのですが、在宅医療、在宅看取りの要となる「訪問看護師」の姿が全く描かれていなかったことがとても残念でなりません。
映画の中で、榎木さんは、「看取り士は看護師やヘルパーではありません」と言われていたと思いますが、そういう役割、働きをせず、「看取り士」が入る隙間があるのか?などとても気になるのです。
「看取り士会」のHPでは、「悲しいけれど、温かい死を迎えたいと願う家族を支えるのが看取り士」とあり、これって、我々在宅の医師、看護師、ケアマネが日々取り組んでいることではあります。ただ、それぞれが本来の業務(医師→診療、看護師→看護、ケアマネ→ケアマネジメント)が精一杯で、患者さん、ご家族の話を十分聴けなかったり、思いに寄り添うことが不十分で、それを補う役割というならわからないでもないです。
2〜3年前から、「ACP(アドバンスケアプランニング)」という言葉や、その日本での愛称「人生会議」という言葉を耳にすることが多くなり、その必要性が議論されるようになりました。ただ、「縁起でもない」等々で遠ざけられ、「本人の思い(希望)」知らぬまま、それに寄り添うことないまま最後を迎える方が多いのも事実。
だから、緩和ケアにおいて、ACPを担当したり、本人、家族の精神的支え、看取りに向かう心持ち等の指南が専門というならわからないでもないけど・・・(これも変だなぁ)
ですから、「看取り士」という職がクローズアップされすぎて、「看取り士」単体ばかりが誕生しても仕方がないように思っています。
穏やかな看取り、最期には、上手に医療を利用することが重要です。
点滴をしたり、注射や飲み薬等で、症状を緩和することも大切。便が出にくくなったり、床ずれ(褥瘡)もできてくることがあるので、緩下剤や摘便という方法で便を出し、お腹をすっきりさせてあげることも必要です。また、弱っていく過程では、足す医療ばかりでなく、間引いていく医療も必要です。これらには医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、在宅チームで力を合わせ、弱っていき、死に向かっていかれる患者さんに追従していくことが重要となります。わかりやすく言うと、家で最期まで過ごせる状況、家で穏やかに最期を迎えることができる状況を、ご家族を支え、作っていかなければ達成できないのです。
ですから、私は、穏やかな自宅での看取りを増やすために「看取り士」を増やそう!という動き(ムーブメント)ではなく、「看取り士」のマインド、スキルは、看取りに関わるすべての医療者に必須のマインド、スキル!という方向性で宣伝、アピールしてもらいたいなあと思っています。
「看取り士」研修を受けていたり、「看取り士」資格を持った専門職種が増えるというのが理想ではないかなと思っています。
(※誤解のないよう表現には気をつけていますが、「看取り士」を決して否定するものではありません)